2008年7月28日月曜日

パブリックドメインの時代に

以前、若手の編集者と飲み会の席で映画談義となった。まあ、よくある“今まで見た中のベスト10は?”というような他愛のない話だったが、驚いたのは件の彼が挙げたのが『フィラデルフィア』『アポロ13』『ワーキングウーマン』…。まあ悪い映画ではないが、私にとってみればごく最近のヒット作の域を出ない作品ばかりだ。確かに年齢的には20歳ほど差はあるが、またそれぞれの趣向や好みも確かにあるだろう。それにしても自分の人生を変えるような作品の出会いがこのレベルかと内心いささかあきれてしまった。
“ほら、もっとさあ、『カサブランカ』とか『禁じられた遊び』とか、黒澤ものとか、他に名作あるだろう”
と問うと、“なんかモノクロっていうことだけで敬遠しちゃうんですよね”と、悪びれずにのたまう。

“何を!モノクロだと言うだけで見ないのか!!!とりあえず、明日、500円の安売りDVDで『カサブランカ』買って観ろ。そしてその感想を提出しろ。オレと映画の話をするならそれからだあああ”

思わぬところで先輩たる私から言われなき宿題を与えられてしまった若手クンは、それでも感心にも早速買い込んだのだろう。2,3日たってすぐに報告してきた。
“いやああ、渋いすねボガート。男の生き様を堪能しました!ダンディズムの極致ですよ”と感動覚めやらぬ様子。そうだろうそうだろう、食わず嫌いとはこのことだ。
ところが若手君は更にひと言、こう付け加えた。
“いや、でもね『カサブランカ』って、カラーだったらもっと感動したんだけどなあ”

こういう感想は何もこの若手クンに限ってのことではない。
実は、アメリカでもそういう議論は結構あって、実際に『カサブランカ』はテッド・ターナーがワーナーの副会長に就任した際に試み賛否両論だったことがあるのだ。
しかし、安直に名作モノクロ映画をカラーに着色したところで作品の本質は図れないだろうし、モノクロフィルムを光の入れ加減や陰影で登場人物たちの心の動きを表現したり、映像表現の効果に心血を注いだ映画界の先人たちの功績を無視するに等しい行為だと、個人的には思う。
更にいえば、モノクロームの世界にこそ美しさを表現できる映像というものがあると確信している。

映画が出来て100年以上経過し、著作権法で決められた期間を超えて経年によるパブリックドメインの作品が世に出回るようになった。しかもそれが本屋や駅の特設売店とかでワンコイン(500円)で自分のものに出来る時代となってしまったのである。マスタープリントではない安易なDVD化に対して原版権を持っている映画会社や、肖像権をたてに取る権利継承者の訴えによってこれらワンコインDVDの販売は未だに問題がないわけではないが、いまのところ原則法的には止められないと言うことのようだ。

反面、ファンの立場からすれば誰もが名作と認める作品や、公開後、テレビ放送すらされなかった歴史に埋もれていた作品も、気軽に手に出来るようになったメリットはとてつもなく大きい。記憶と言うのはあいまいなもので何度も繰り返してみた作品だってDVDで観るたびに新しい発見がある。
何もワンコインDVDはオールドファンだけのものではない。前述の若手編集者のようにパブリックドメイン化して初めて作品にたどり着くケースも山ほどあるだろう。

私にとってみればおさらいということもある。著作権法の是非はひとまず置いておいて、まずは本屋にいけば特設の什器に並ぶ名作の数々に出会えるという時代に生きれる幸運を認識しながら、かつて観て感動した作品、また見逃してきた作品をできるだけ集めたいと思っている。
それもこれも若手編集者と飲み屋の映画談義が発端となって思いついたことではあるのだが、いまさらながら、とは思うものの“銀幕”の世界に魅了されし一人の映画ファンとして、他愛のない鑑賞日記(ワンコインDVD中心だが、リバイバル上映やテレビ放映も念頭に入れつつ)を飲み屋の映画談義のようにこのブログの場を借りて書き綴って行けたらと思っている。

2 件のコメント:

baba さんのコメント...

モノクロの方が総天然色よりも色彩が豊かだということを分かっとらんのです、若者と資本家は。

カルティエ・ブレッソンにしろキャパにしろ、モノクロの写真(の名作)を見れば、分かるだろうに。デッサンやモノクロ絵画(の名作)を見ても「カラーならいいのに」という気かしら。

絵画、写真からやってきた二十世紀芸術映画とTVやゲームからきた若い観客は、意外と接点が狭いのか。いや、狭いのはグチる小生の方ですか。

秋山光次 さんのコメント...

>色彩が豊か

その通りだと思います。

おそらく若い連中にとっては世代否定するために
モノクロ=古いもの
とインプットされているかもしれませんね。
あと、想像力の欠如ということですかね。